2020年6月10日に早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所主催のオンラインイベント「イスラエルのイノベーション・エコシステムとコロナ対応」が行われました。
15:00 開会
講演 Ⅰ「イスラエル概況(コロナ禍の状況を含む)」
栗田 宗樹 氏(在イスラエル日本国大使館 一等書記官)
講演 Ⅱ「イスラエルスタートアップ投資とMagenta Venture Partners のご紹介」
水野 敦之 氏(Magenta Venture Partners General Partner)
16:10 パネルディスカッション
栗田 宗樹 氏(在イスラエル日本国大使館 一等書記官)
水野 敦之 氏(Magenta Venture Partners General Partner)
モデレータ
樋原 伸彦(早稲田大学ビジネススクール准教授、早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所所長、日本イスラエル商工会議所 理事)
17:00 閉会
講演 Ⅰ
講演 Ⅰ「イスラエル概況(コロナ禍の状況を含む)」では、在イスラエル日本国大使館 一等書記官の栗田宗樹氏より、Startup NationからScale-up Nationへと転換を図るイスラエルについてお話がありました。
◆概況について
◆ハイテク分野を中心に成長を続け、Startup Nationとなったイスラエル
・人口1844人につき起業1社(世界第1位)
・起業は年平均600社以上(米国に次ぎ、世界第2位)
・NASDAQ上場企業96社(米、加、中に次ぎ世界4位)
・国防軍、政府、VC、インキュベーター、アクセラレーター、大学・研究機関、多国籍企業など多様なプレイヤーによるエコシステムが形成されている
・起業家とイノベーションを支える文化がある(High risk taker 失敗を許容・推進、No hierarchy、Impatient 意思決定のスピードが速い、フツバー、Think out of Box オリジナリティへの執着)
◆優れた科学技術を生み出す大学
基礎科学が強い。また、ほぼ全ての大学にサイバーセキュリティーセンターがあり、そのものの研究以外にも法律面や経済面からの研究も進められている。さらに、各大学が技術移転機関を会社形態で持っており、世界に先駆けて大学で生まれた成果を民間移転する取り組みを行っており、ワイツマン研究所やヘブライ大学は研究成果の商業化から得られる収入も世界トップレベル。大学自体が知財を登録するというモデルを生み出したのもイスラエルだと言われている。
テクノロジートランスファーオーガニゼーションは大学に留まらず、政府系農業機関や大きな病院なども有し、そこからイノベーションが起こることもある。医療機関では、現在はデジタルヘルスが注目されている。
◆日本とイスラエルの関係
日本とイスラエルの経済関係は、順調に拡大しており、日本企業による投資もAI、IoTに限らず他分野に広がりを見せている。
上の図「イスラエルへの進出・投資に当たっての留意事項」の右下の表を見ても分かる通り、日本人とイスラエル人の性格的に正反対に位置しており、1→100が得意な日本人に対して、0→1が得意なイスラエル人という傾向があった。
しかし、イスラエルは、伸び悩む生産性、大きな所得格差(高収入なハイテク・輸出型産業は労働人口のわずか9.2%)、高い貧困率などの課題感から、Startup NationからScale-up Nationへと転換を図ろうとしている。
また、多国籍企業の存在感も増しており、
・多国籍企業による支出は、イスラエルGDPの2.6%
・イスラエルの税収の18%に貢献
・研究開発費の53%が海外から
・2017年の多国籍企業の従業員1人当たりの年間賃金は、スタートアップの従業員の1.5倍
となっている。
実際に、イスラエルの起業数は、2017年は1,383社だったのに対し、2018年は707社と減少している。
そのため、日本人の持つ、グロース企業に必要な経験・ノウハウ・商流などが、Scale-up Nationへと転換を図ろうとしているイスラエルとの協業に役立つのではないだろうか。
◆最後に コロナ渦について
2020年6月8日午後時点における死者数は人口100万人当たり約32人と、世界的に見ると比較的低めであるが、これは3月17日に死者数が0人にも関わらず外出禁止令を出すなどの超積極的な感染予防・対応策の効果もあったのではないかと考えられる。このような対策に対し、好意的な国民が多く、コロナ渦を一種の戦争と捉えて、国民が一体となって戦おうとする姿勢が見られる。
講演 Ⅱ
講演 Ⅱ「イスラエルスタートアップ投資とMagenta Venture Partners のご紹介」では、Magenta Venture PartnersのGeneral Partnerである水野敦之氏より投資状況についてお話がありました。
◆イスラエルでベンチャー企業が生まれる背景
ベンチャー企業を生み出す背景
【文化的】知性と創造性を高く評価し、失敗に対して許容度が高い国民性
・1948年建国の「移民」国家。ユダヤ系9割が移民orその子孫であり、Risk-Takerの国民性を持つ
・相対的に非階層的でフラットな社会
【政治的】国民皆兵制により、若くして先端技術に触れる場を国家として提供
・18歳から最低男性3年、女性2年。次戦での最新技術への接触
・最先端の技術開発へ参画
・人脈形成の場の提供(起業の源泉)
【地理的】商都Tel Aviv近郊に各種施設が密集。緊密に連携できるエコシステムを醸成
・Tel Avivから車で1時間程度の距離に大学・Global企業のR&Dセンター(400社程度)、VC、ベンチャー企業コミュニティが密集
ベンチャー企業市場環境
下記指標で、世界1位
・一人当たりのベンチャー企業数(常時5,000社程度)
・従業員一千人あたりの研究者数(OECD内)
・対GDP比の研究開発費(4.2%)
・イノベーション能力、Entrepreneurship(IMD Global Competitiveness Yearbook 2014)
・GDP比ベンチャー企業投資額(2017年、OECD Entrepreneurship at a Glance)
◆イスラエルのスタートアップ投資環境
Capital Raisingの額とExitの額を比較するとExitの額の方が高いため、投資したら利益が出る可能性が大いにあると考えられる。また、VC投資領域を見ると、High Tech分野が主要投資領域。主要VC新規投資先は、Enterprise、Software、Cyber Security、AI、Data Analytics、Internet Software、Internet of Things、Cloud等。また、Life Scienceも一定規模の投資領域で、Health Tech案件が継続増。IT出身者とLife Science出身者の組み合わせも。
2015年–18年の代表的買収事例
・intel Acquired Mobileve(Semiconductor)
US $15.3B March 2017
・Mitsubishi Tanabe Pharma Acquired NeuroDerm(Pharmaceutical)
US $1.1B July 2017
・Salesforce Acquired Datorama(Marketing)
US $850M August 2018
・Continental Acquired Arugus(Auto-cybersecurity)
US $430M November 2017
・Amazon Acquired AnnapurnaLabs(Semiconductor)
US $360M January 2015
・SONY Acquired Altair Semiconductor(Semiconductor)
US $212M March 2016
◆イスラエルのスタートアップ資金調達
2020年3月のVCによる投資額は50%減しているが、コロナ渦により既存の投資先へのケアを優先させたり、現在の状況で会社の株価を決めたくないということで増資を避けている可能性が考えられる。また、現在あえて資金調達の発表を控えているスタートアップがいた場合に、後ほど投資額が増える可能性もある。
さらに、National Instrumentsが、イスラエルのデータ分析を行うスタートアップOptimalPlusを、オンライン上で356ミリオンで買収しニュースとなった。コロナ渦の影響は若干出るかもしれないが、投資は止まっていない。
◆Magenta Venture Partnersについて
・2018年11月設立のイスラエルVCファンド($90M+)
・イスラエル関連のベンチャー企業へ投資
・三井物産とイスラエル人VC 2名のJoint Venture
・Magenta = Blue ( Israel ) + Red ( Japan )
・ハイテク全般を投資対象
・投資家(参加企業)の協業支援も
パネルディスカッションは、樋原伸彦先生、栗田宗樹氏、水野敦之氏の3人で行われました。モデレーターの樋原先生の鋭い問いかけにより、一層日本とイスラエルの関わり方について考えを深めることが出来ました。また、参加者のコメント欄にて質問を行うことが出来ました。以下に、印象的だった意見をご紹介します。
「イスラエルというと投資にばかり目が行きがちだが、イスラエルの大学との共同研究を行ったり、研究開発の拠点をイスラエルに置いても面白いのではないか。両国の対照的な性格が活かされて、イノベーションを生むきっかけになる可能性がある」
「紹介によるミーティングの際に、日本では事前に相手とどのように協業出来そうか考えてくるのに対し、イスラエルでは会って話しながら、その場で考えることで思っても見なかった方法が思いつくことがある」
「まずは日本に進出しているイスラエル企業と協業することから始めてもいいし、既にイスラエルとの協業に成功している日本企業の例を調べることで、その他の日本企業でもイスラエルとの協業がしやすくなるのではないか」
以上、「イスラエルのイノベーション・エコシステムとコロナ対応」について、お伝えさせて頂きました。
素晴らしいオンラインイベントを愛りがとうございました!
シリコンバレーベンチャーズ Blog 2020年5月5日
COVID-19と闘うイスラエルスタートアップまとめ ~ テルアビブ在住起業家が現地レポート ~
シリコンバレーベンチャーズ Blog 2020年4月24日
「イスラエル・エコシステム ~Start-up Nationの最前線~」イベントレポート
※こちらも早稲田大学イノベーション・ファイナンス国際研究所主催のオンラインイベントのレポートです
シリコンバレーベンチャーズ Blog 2020年4月16日
イスラエルの著名VCが語るスタートアップがコロナ危機から生き残るポイント
シリコンバレーベンチャーズ Blog 2019年12月30日
Forbes JAPAN 2019年11月号
スタートアップからスケールアップへ、VCが注目するイスラエルの現状
※講演 Ⅰの在イスラエル日本国大使館 一等書記官の栗田宗樹氏にインタビューさせて頂きました。
Forbes JAPAN 2018年10月号
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Forbes JAPAN :「イノベーション・エコシステムの内側」
りそな銀行 :「イノベーションの森」
りそな銀行 :「イノベーションの哲学」
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山口新聞 :「東流西流」10月20日号(Webでも紙面でも両方お読み頂けます)
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